東京高等裁判所 平成12年(う)1731号 判決
被告人 益子潤
〔抄 録〕
論旨は、要するに、原判決は、「被告人は、(一)警察署の取調室において覚せい剤二・八五四グラムを所持し、(二)他人方において覚せい剤を注射により自己使用した。」旨認定したが、右(一)の事実で被告人が逮捕されるに至った経緯は、被告人が知人の運転する盗難ナンバー付きの車両に乗っていたところを、警察官に止められ、手首を掴まれるなどして強引に警察署へ連れて行かれ、同所で、警察官から、手を叩かれるなどして、所持していたバッグを机上に落とされ、右バッグ内を無断で捜索された結果、本件覚せい剤が発見され、現行犯逮捕されたというものであって、逮捕に至る捜査手続は違法であるから、逮捕後に収集された本件各証拠は、いずれも違法収集証拠として証拠能力が否定されるべきであり、原判決には、このような証拠を採用したことにつき訴訟手続の法令違反があり、また、右各証拠を除けば、被告人は本件各事実につきいずれも無罪であるから事実の誤認がある、というのである。
そこで検討するに、原審記録によれば、原審第一回公判期日において、被告人は本件各公訴事実を認めた上、有罪である旨の陳述をし、本件各証拠が簡易公判手続により取り調べられたことが明らかである。そして、これらの証拠に証拠能力がない旨の主張は、当審において初めてなされたものであるから、所論は、記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われた事実以外の事実を援用するものであって、刑訴法三七九条、三八二条に違反する。
なお、所論は、同法三八二条の二のやむを得ない事由があるとして、弁護人作成の疎明書を援用するが、同書面によれば、被告人は、原審当時、拘置所での弁護人との接見時に言う暇がなかったから、右の点を主張しなかったというにすぎず、同条の「やむを得ない事由」があったとは認められない。
そうすると、論旨はいずれも不適法な主張である。
(金山薫 飯田喜信 芦澤政治)